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  2. 研究領域概要

本領域の目的

本領域は、従来の「成長から衰退へ」という固定的な発達・加齢観を刷新し、人間の生涯における変化を、社会との相互作用の中で多様な成長と変容を繰り返す生涯発達のプロセス(図1)として明示することを目的とする。そして、人間に関する多様な学問分野を融合することで、新しい学際的研究分野としての「生涯学」を創出する。その目的を達成するため、行動解析を基盤とする認知心理学的研究、脳機能の計測による生理心理学的研究、精神・神経疾患を対象とする臨床心理学的研究、社会調査を基にした社会学的研究、多様な文化を対象としたフィールド調査を基にした文化人類学的研究などの基盤的研究と、それらの基礎的研究の成果を社会実装するための教育学的研究を有機的に連携させ、基礎から応用までの展開を進める多元的な人間研究を実施する。本領域の進展により、全世代の人々が豊かな人生を享受できる超高齢社会を実現するための科学的基盤の解明と、その成果を元にした社会実装を行い、新しい生涯観を社会と共有することをめざす。

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図1

本領域の内容

本領域では、既存の学問分野にとどまらない広範で多元的な研究を実施することで、従来の生涯観を刷新するための心理・社会メカニズムの解明とその社会実装を進める。

具体的には、高齢期でも獲得できる認知機能の性質と、高齢期には獲得しにくく衰退・消失してしまう認知機能の性質を若年者との比較の中で実験的に明らかにし、柔軟な可塑性が引き出されるメカニズムを明らかにする(認知心理学、生理心理学)。また、認知機能障害の実態とそれに関わる認知予備力について検討する(臨床心理学)。さらに、多様な実社会において、様々な世代や障害に対する適切な生涯観に依拠しつつ、新たな発達・加齢観の下で育まれる豊かな生涯を支えるために、効果的なソーシャルサポートとはどのようなものかを大規模社会調査から明らかにする(社会学)。そして、知識や技能の獲得過程と成熟過程もしくは消失過程が、文化や生活環境が違う場所でどのように発現しているのか、社会制度や生態環境によってどのような影響を受けるのか、多様な人類社会においてどのような発達観や加齢観、ライフサイクルがあるのかを多様な社会集団に対するフィールドワークから明らかにし、それらの比較を通して多様な生涯観を相対化することで、新たな生涯観を生み出す社会的要因とその可能性と限界を探る(文化人類学)。そのうえで、これらの基礎的知見を基盤としつつ、地域や個人に即した社会教育プログラムを実践することで、新たな生涯観の中で実現される社会教育プログラムを実装する(教育学)。このようにして、人間に関する諸科学、すなわち心理学、文化人類学、社会学、教育学等を融合して基礎から応用への展開を進め、さらにそれらの研究を循環させることで、従来の発達・加齢観を刷新する新たな「生涯学」を創出する(図2)。

図2
図2

期待される成果と意義

本領域の中心的な成果は、「生涯学」という新しい加齢観に根差した学際的な研究領域を世界に向けて確立することであり、超高齢社会に有益となる新たな生涯観を社会へ提供することである。すなわち、新しい生涯観に裏打ちされた人間発達の実態を明らかにすることで、生涯発達という発想を社会に広め、人間が年齢を重ねていく中でいかに柔軟性と多様性を持つ存在であるかを示せるはずである。また、脳機能の加齢による可塑的変化のメカニズムを理解し、それに基づいた教育法の開発も期待できる。それは同時に、新しい生涯観に基づく豊かな超高齢社会の実現に向けた科学的基盤を提供することでもある。